育児ノイローゼとは無関係に、産後すぐ産後うつになった話

一般的に産後うつは、育児ノイローゼの派生として語られることが多いです。
また、産後すぐに涙もろくなったり、眠れなくなったりするのは産後うつとは違って「マタニティブルー」と呼ばれ、2週間程度で落ち着いてくる、という情報もしばしば見かけました。
確かに産後すぐ、ホルモンバランスに激変によって、かなり情緒が不安定になることはよくあることのようです。ホルモンバランスはじょじょに安定していくので、脳機能に影響がない場合は、一般の情報通り、時間が経てば落ち着くこともあるでしょう。

しかし私は、ホルモンバランスの激変によって脳が深刻なダメージを受けたため、抑うつがどんどんひどくなり、産後3週間ほどでピークになりました。育児については夫の手助けもあり、1日の約半分は休ませてもらっている状態だったにも関わらず、です。
もう耐えられなくなって精神科を受診すると、即座に投薬治療開始になりました。育児ノイローゼとはまったく別の要因で、産後うつになったわけです。

この記事では、私の体験談を語ろうと思います。
同じような状況で、情報を得にくく苦しんでいる方がもしいたら、少しでも助けになればいいなと願っています。

産後すぐ、入院中のこと

私は帝王切開で出産しました。予定帝王切開ではなかったので、約2日たっぷりしんどい思いをしたあとに腹を切られ、体力もかなり削られていました。出産の翌日は点滴スタンドを引きずって自力でトイレに行く訓練だけで限界、という状態でした。
産後2日目にようやくものが食べられるようになり、腹は痛かったですが流動食を異常においしく感じました。これからどんどん元気になるのだろう、とそのときは思いました。

2日目の午後~夕方ごろには常時点滴されていた麻酔が止められ、3日目からは新生児室へ行って生まれたばかりの赤ん坊の世話をするよう指導されます。
その日から突然、夜はほとんど眠れなくなりました。
はじめは、麻酔が急に切れたので眠れないのだろうと楽観的に考えていました。麻酔中は常に眠く、目もかすむし、話しながら眠ってしまうような状態だったため、じゅうぶんすぎるほど寝たから眠くならないだけだろうな、と。

翌朝からは食事も通常の入院食になります。私は妊娠中に食事制限が多く、食べたいものもたくさん我慢していたので、産後は食事が楽しみだと思っていました。なんなら差し入れで甘い物でもリクエストしてやろう、と思っていたくらいです。

でも、あんなに楽しみにしていた食事が、ほとんど喉を通りませんでした。体を起こすと腹の傷が痛いので食べにくい、というのもあったのですが、気合いを入れて立ったまま食べようとしても、なぜか食事をおいしく感じませんでした。単に病院の食事が合わないのだろうと思って、この時点ではそんなに気にしませんでした。

眠れない、食べていない状態で新生児室へ行くと、急に具合が悪いような気がしてきました。助産師さんに相談してみると、「お母さんになったんだからがんばりましょう」と励まされました。実際に赤ん坊に触れると、なんともいえないあったかい気持ちになり、なんとかお世話の指導を受けることができました。

入院先の病院では、新生児のお世話は数時間刻みで時間が決められており、手順もすべて決まっていて、報告メモのようなものも書かないといけません。母乳育児推奨なので、母乳についても詳しく、ときに厳しい指導があります。

その日から、夜は胸がぱんぱんに張るようになり、痛みもさることながら、体がひどく熱いように感じて、少しでもうとうとすると全身にびっしょり寝汗をかいて起きました。夜間のお世話は一度だけ病院にお任せできる仕組みでしたが、深夜と早朝には新生児室へ行くので、眠れるのはせいぜい30分ほどが2回、といった状態になりました。

病院の食事もどんどん食べられなくなりました。とくに朝ごはんがきつかったです。昼間は少し眠れることもあったので、夕食はまだ少し食べられるような感じでした。

そのうち、頻繁にお見舞いに来てくれる夫の顔を見るだけで泣けてくるようになりました。私はもともとの性質があまり融通の効かないところがあるのですが、赤ん坊のお世話時間に少しでも遅れると気になるようになってしまい、1日じゅう気の休まるときがない、というような状態になりました。

当時、友人たちがLINEのグループチャットでおもしろいやり取りをしていたので、それを見るのが唯一の楽しみでした。ほかの時間は、だいたい1回2分ほどで終わるツムツムをひたすらやっていました。このふたつがなかったら、もしかしたら入院中に死んでいたかもしれない、と、誇張でなく思います。

夫にはホームシックだろう、と伝えました。退院したら治るだろうと思っていたのです。私には社交不安障害という持病があり、他人の目が異常に気になるところがあるので、他人の目に常に晒され、他人と共同生活を余儀なくされる入院生活は、本当にくたびれました。割り切ることもできませんでした。

そのうちどんどん弱ってきて、夫から差し入れてもらう大好きなお団子も食べられなくなりました。そもそも授乳中に食べてはいけないものなどの情報も、助産師さんに言われたり、インターネットで見てしまったりすると、食べたい気持ちもなくなっていきます。

退院前の2日ほどは、不眠とストレスのためか血圧が基準値をはるかに超え、授乳もストップになりました。降圧剤を通常より多く処方されるハプニングもあり、血圧が下がりすぎて起き上がれないこともありました。でも少しでも不調があると退院できなくなるかもしれない、と思い、医師に対しては大丈夫です元気です、と繰り返していました。

退院後、やっと休めると思ったものの…

なんとか退院でき、住み慣れた家に帰ることができて、その日は本当に嬉しく、赤ん坊もすごくかわいく見えました。これからしっかり頑張ろう、と思っていました。

血圧もすぐに下がりました。夫が作ってくれたご飯も、久しぶりにたくさん食べられて、チョコなどそれまで我慢していたお菓子も食べました。

ただ、睡眠だけはうまくいきませんでした。休んでおいで、と言われても、寝付くのに時間がかかり、寝られたとしても1時間ほどすると起きてしまいます。寝汗や胸の張りなどの、それこそ産後特有の症状も続いていました。

翌日から、どんどん食欲が落ちていきました。なんとか食べようとはするのですが、気持ちが空回りするだけでした。赤ん坊のお世話は当然慣れないし、指導された通りにしても泣き続けることもあり、食べられるときに食べなければ、と思えば思うほど食べられないし、眠るのも同様でした。

夫はほとんど家にいて、赤ん坊のお世話も一生懸命していました。明らかにオーバーワークだろうと思いましたが、愚痴も言わず私には休んでいて、と言ってくれました。本当なら夫に甘えて、しっかり休めばいいのですが、なぜかそのときは、自分は夫にばかりやらせるダメ人間だ、という強迫的な思いがあり、寝室へ行くとますますその思いが強くなって、涙が出ました。赤ん坊のことも怖くなりました。私にはこの子のお世話ができないのだと、自分を責めるような考えばかりが浮かびました。

もともとの社交不安障害も強く症状が出てしまっているような感じで、退院から約一週間後に産後の状態をチェックする検診も、病院までたどり着ける気がしなくなりました。外出する、と考えただけで吐き気がするようになり、ベランダへ出ることすら怖くなりました。

あまりにも眠れない日が続くので、妊娠するかなり前に処方されていた軽い頓服(リーゼ)を自己判断で飲みました。授乳もそのときはストップしました。するとやっと5時間ほど眠れ、産科の検診へ行くことができました。

検診で事情を話すと、リーゼと産後に効くという漢方薬を処方してくれ、精神科へ行くようすすめられました。そこでやっと、やっぱりどうも脳がおかしいのかもしれない、と思いました。

精神科を受診するまで

そうは言ってもかかりつけ医もなく、日々赤ん坊の世話に追われるので、なかなかすぐに精神科へは行けませんでした。また、「マタニティブルーなら2週間程度で落ち着く」という情報をよく目にしたので、とりあえず2週間は待ってみないといけない、と思い込んでもいました。

その頃は、夕方ごろから薬を飲んで寝て深夜に起き、夫と交代して夜間に赤ん坊のお世話をしていました。なぜかというと、夜のほうが母乳の出が良くなる、と入院中に散々指導されたことが頭にあったからです。そもそもろくに食べられない人間からじゅうぶんな母乳が出るわけもないし、だいいち体質もあるし、そういうときのためにミルクという選択肢があるというのに、なぜか母乳育児を「頑張らなければいけない」と思いつづけていました。

夫が寝てしまう夜がすごく怖くて、赤ん坊はほとんど寝ているだけなのに居ても立ってもいられず、なにか少しでも異変があるとインターネットにかじりついて調べました。調べても有益な情報はないとうすうす分かっているのに、やめられませんでした。

好きだったゲームも読書も、ほとんどできなくなりました。毎週楽しみに読んでいる週刊少年ジャンプでさえ読む気がしませんでした。夜が怖いのも、具体的な恐怖ではなく、漠然とした怖さにだんだん変わっていき、早く朝が来てほしくて1時間くらいずっと時計を凝視していたこともあります。

当然といえば当然ですが、2週間経ってもまったく症状は落ち着かず、処方された頓服も切れそうになり、いよいよダメだ、と思いました。

精神科で診断されてから

家から通いやすく評判のよい精神科に行ってみたら「初診は受け付けていない」と言われたなどのアクシデントはあったものの、なんとか診てくれる病院を見つけ、受診しました。

今の自分の状態を相談すると、「ホルモンバランスの激変で脳機能に影響が出ている」「マタニティブルーのようなものではない」「おそらく持病も強く症状が出ている」といった診断になり、このときは明確に「産後うつ」とは言われませんでしたが、抑うつ状態には違いないということで、抗うつ剤を使って治療することになりました。

もともと持病で飲んだことのあるジェイゾロフトというSSRIが、幸い授乳にもっとも影響が少ないということで、それを使うことに決めました。

ただ、以前飲んだときは副作用がほとんど出なかったのに、そのときは様々な異常があったためか、激しい副作用が出てしまいました。

産後はずっとつらかったですが、このときが一番つらかったように思います。

薬のおかげで感情の大きな落ち込み、恐怖などは抑えられつつあり、涙も出なくなっているのに、食欲はますますなくなり吐き気が常にして、全身をかきむしりたいような衝動がありました。見かねた夫が1日のほとんどを休ませてくれたにも関わらず、寝床のうえでもう永久に動けないんじゃないか、と思いました。ずっと天井を見ていました。からだじゅうがただの棒になったみたいで、自分はお産のときに死んだんじゃないかと思いました。そのくせ、リアルな死を想像して怖くて怖くて仕方ありませんでした。理屈じゃなく、目の前が真っ暗になるような恐怖で、息を吸い込めないような気持ちがずっと続き、少し寝て起きても立ち上がれないことがしばしばありました。

そこまでひどい状態になっているのに、精神科の次の予約日まで待たなければいけない、と思い込んでいて、なぜか救急車を呼んだら助かるかもしれない、という思いと、帝王切開の手術後にすごく気分が悪くなって鎮静剤を打たれたけど効かなかった、救急車を呼んだってどうしようもないはず、という奇妙な思い込みが消えず(実際、食べられないなら点滴、くらいしかやりようがないと思う)、1日1日、もう毎分毎秒といっても過言ではないような必死さで、ただ時間が過ぎるのを待ちました。あんなに長い1日は人生で初めてでした。寝ても起きてもこんなにつらいなら死にたい、と思ってしまいました。

その後夫から、予約日じゃなくても緊急なら診てくれるはずだから、と強く背中を押してもらい、やっと納得して、副作用と異常な状態について相談に行きました。主治医は真剣に応じてくれ、「死ぬ思いまでして飲むような薬じゃないから」と薬の変更についても相談のうえ、やはり処方は変えず、追加で胃腸症状にも効果のあるスルピリドという安定剤を服用することにしました。

その頃から副作用が軽減したのか、それとも案外スルピリドが効いたのか分かりませんが、じょじょに食べられるようになり、死にたいという気持ちも消えていき、眠りも深くなってきました。あまりに怖いような気がするときは頓服も遠慮なく飲みました。自治体が紹介してくれた、助産師が自宅に出張してくれるサービスも使い、母乳について相談しました。それでだいぶ気が楽になりました。

いろんな相乗効果で、赤ん坊の一ヶ月検診がある頃には、なんとか頓服を飲んだ状態であれば外出もできるようになっていました。(タクシーが閉鎖空間に思えて、吐き気をずっとこらえてはいましたが、でも外に出るだけで死ぬと思っていた頃よりはマシです)

それからどうなったか

すべての症状がかなり軽くなり、やっと妊娠前の自分に近い状態まで戻ってきた、と思えたのは、産後半年ほど経ってからでした。食事ができるようになったとき、あまりの感動で食べることに歯止めが効かなくなったため、妊娠前と比べると10kg太りましたが、あまり気にしないようにしています。

母乳についても一時期は思い悩みましたが、抑うつの症状が落ち着いてくると、私は授乳という行為が単純におもしろいから、母乳をあげたかったんだな~と、気楽に捉えることができるようになりました。

赤ん坊が10ヶ月になる現在では、頓服もときどき服用しているものの、ゲームや読書を楽しめているし、アニメや映画も見られるし、外出して友人と遊ぶこともできるようになりました。食事もおいしいです。精神科の主治医は、「今の症状からふり返ると、やはり産後うつだったと思われる」というようなコメントをしていたので、あの諸々の症状は産後うつという言い方でよさそうです。

当時は怖いとさえ思った赤ん坊も、かわいくそして適度ににくたらしいです。育児は普通に大変ですが、脳がまともなので、一時預かりのようなサービスを使うこともできるようになりました。脳がおかしかったときは、もうこの子を育てることは不可能だから里子に出そうとまで思い詰めていたことが、今ではちょっと信じられません。こんなにかわいくておもしろいのに……と思います。

みなさんに伝えたいこと
  • 産後うつは、育児ノイローゼとはまったく別物として発症することがある
  • 産後うつは、産後すぐから発症する場合もある
    • ただし、産後すぐの場合はいわゆるマタニティブルーとの区別がつきにくい
    • 赤ん坊を誰かに任せられる、本来なら安心できる状況でも眠れなくなったら、うつを疑ったほうがよいと私は思いました
    • 不眠・食欲低下も2週間以上つづくと病院へいったほうがよいと思います
  • 産後のホルモンバランスの変化は、脳に深刻なダメージを与えることがある
    • 精神疾患の既往があると、脳はより影響を受けやすい、と主治医からは説明されました
    • なので私のような持病がある方や、うつ病になった経験のある方は、とくに気をつけたほうがいいかもしれないですね
  • うつ症状が深刻化したあとでは、育児に手助けがあろうとなかろうとあまり関係ない
  • 投薬治療をするならなるべく早いほうがよい
    • 我慢して最悪の選択をしてしまったら取り返しがつかない

死ななくて本当によかったです。以上です。

P.S. Twitterでつらつらつぶやいていた内容をまとめてもらったものもあるようなので、リンクさせて頂きます!

togetter.com