痴漢の心理について本気出して調べてみた結果、万引きとの類似性に気づいた話

電車内で初老の男性が女児を抱き上げて膝に乗せた話

痴漢犯罪加害者のインタビューを読むと、被害者(自分が痴漢行為をした相手)に関して、人格のある一人の人間としてではなく「ぬいぐるみのような存在」であったと述べている方がいました。被害者の不快感や、もっと深刻な心の傷について、加害者はまったくと言っていいほど分からなくなっているようです。

dot.asahi.com

この感覚について考えてみたとき、思い当たったのは私が電車に乗っているときに遭遇したとある出来事についてでした。

今年に入ってすぐのことです。電車内で初対面と思われる女児を悪気なくひょいと抱き上げて膝に座らせた初老の男性を見かけました。女児は3~4歳くらいであろうと思われます。女児の両親と見られる若い男女もそろって電車に乗っており、困ったような顔をしてなりゆきを見守っていました。

男性に悪気がないことはその場にいた誰の目にも明らかでしたが、女児は険しい表情になり、全身をこわばらせてじっと両親を見上げていました。単なる人見知りと言えばそうなのかもしれませんし、初老の男性も女児に危害をくわえているわけではありません。しかし女児のなんともいえない表情を見ていると、一連の出来事が「ほほえましい」ものであるとはとても思われませんでした。

そのときには「なんだか不穏な感じがする」「もやもやする」としか思いませんでしたが、のちにこの出来事の構造は、痴漢行為とよく似ているのかもしれない、と考えるようになりました。

初老の男性は、無邪気に幼児をかわいいと思い、幼児を愛でようと何気なく手を出している、けれども、手を出された幼児は少なくとも嬉しそうな顔をしていない、困っているように見える、もしかしたら死ぬほど嫌だったかもしれない。その非対称性が、痴漢加害者と被害者の心理の絶望的なまでの断絶と似ているように思われるのです。

初老の男性は女児に話しかけていましたが、女児の「人格」を認め、尊重しているようには思われませんでした。女児の嫌がっている表情を見ても「人見知りかな、かわいいね」となるだけで、自らの行いを省みることはないでしょう。あまりよい例えではないのですが、我々が犬や猫を抱き上げる際の気軽さも、痴漢犯罪者の被害者に対する心理に近いのかもしれません。

さて、私がこの出来事を通して痴漢加害者の心理を透かして見るに至った経緯を、以下に説明しようと思います。

痴漢犯罪の背景

法務省の提供する犯罪白書によると、迷惑防止条例違反の痴漢事犯(電車内以外で行われたものを含む)の検挙件数は、平成18年~平成26年まで非常にゆるやかな減少傾向にあるものの、ほぼ横ばいです。
http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/62/nfm/images/full/h6-2-1-06.jpg
平成27年版 犯罪白書 第6編/第2章/第1節/1

改めて、毎年3,000件を超える被害が検挙されているという数値には脅威を覚えます。

私はこれまで、痴漢に関してはただただ「気持ち悪い」という感情が先行してしまい、これらの犯罪・迷惑行為に対し真剣に向き合う機会を失っていました。しかしこのたび、たまたま痴漢に関する有意義なコラムを読んだことから、「痴漢する人間の心理」を過不足なく知りたいと思うようになりました。知ったうえで、痴漢を減らす方法について考えてみたい、と思ったのです。なのでこの記事では、最終的に痴漢撲滅へ向けてのアイディアまで述べるつもりです。

(ちなみに私が読んだコラムというのは漫画家・ライターの田房永子さんによる「どぶろっくと痴漢の関係」です。書かれている内容のうち、「痴漢はなぜ痴漢をするのか我々はよく知らない」というポイントについて、まったくその通りだと思い愕然としました)

痴漢加害者の心理を調べる

まずCiNiiでキーワード「痴漢」を検索しました。すると冤罪についてや、繊維鑑定など痴漢犯罪の裁判にまつわる研究、また、被害状況や被害者へのケアについての論文は多くヒットしましたが、肝心の「痴漢をする心理」についてはなかなか見つかりませんでした。

図書館で調べるにしてもこのままでは手がかりが少なすぎるので、様々にキーワードを変えて検索したところ、「東京・榎本クリニックで性犯罪加害者の再犯防止プログラムに注力する斉藤章佳氏」が述べる、痴漢加害者へのインタビュー記事が、現場に即した比較的信頼性の高い情報ではないかと思われました。

あとでまとめますが、興味のある方は下記のリンクも参照してください。

toyokeizai.net

gendai.ismedia.jp

榎本クリニックが掲げる性的逸脱行為に関するケアプログラムの解説についてはこちら。

www.enomoto-clinic.jp

ほか、痴漢加害者へのインタビューとしてはAERAの別記事も参考になりそうでした。

dot.asahi.com

なお、余談ですが上記の榎本クリニックが実施しているような「性犯罪の再犯防止プログラム」の受講が受刑者に義務付けられたのは、平成18年からだそうです。ごく最近まで「再犯防止」への取り組みが行われていなかったことに驚きます。

正式名称は「性犯罪者処遇プログラム」、Wikipediaの記述と法務省の研究報告書へのリンクをそれぞれ貼ります。

性犯罪者処遇プログラム - Wikipedia

性犯罪者処遇プログラム研究会報告書(リンク先PDF)

犯罪白書の統計からも、「痴漢型は前科のある者の割合が91.1%」「性犯罪前科のある者の割合は85.0%」と再犯率の非常に高い犯罪であることがうかがえますので、再犯防止プログラムが有効であることを願うばかりです。

平成27年版 犯罪白書 第6編/第4章/第3節/3

痴漢加害者の心理の3パターン

先述した痴漢加害者へのインタビューなどから私が考察した結果、痴漢加害者には以下の3パターンがあるように思われました。

パターン1 ストレス・衝動による依存症型
満員電車など、異性と密着せざるを得ない空間において、ふとしたはずみで異性の身体に触れたことが刺激になり、深みにはまってしまう。飲酒がきっかけになることもある。罪の意識はある、やめたいと思っても繰り返してしまう。広義の依存症に含まれる。
パターン2 ゲーム感覚型
「痴漢待ち」「痴漢OK娘」といった妄想から、「痴漢されることを期待している人間」がいるはずだと考え、実際に行為に及ぶ。とくに抵抗されない場合は「正解」と考え、ゲーム感覚で「狩り」を行う。罪の意識は薄い。パターン1を繰り返した結果、パターン2のゲーム感覚に陥るケースもあるように思われる。
パターン3 精神疾患
窃触障害など、診断名があり「性的逸脱」とされる欲求を抑えられず行為に及ぶ。その他統合失調症などで強迫観念がある、あるいは疾患とは異なるが知的障害により性的な欲求をコントロールできないケースも見られる。病識はある場合が多いが、適切なケアを受けられる医療機関は多くないように思う。

私がもっとも声を大きくして言いたいのは、パターン3の疾患型以外では、いずれも「性欲」が直接的な原因になるわけではない、という点です。痴漢は性欲をコントロールできない性欲モンスターが引き起こす犯罪ではないのです。

では、それぞれもう少し詳しく考えていきます。

パターン1、ストレス・衝動による依存症型

パターン1は、実際に行為には至らずとも、身に覚えのある方は多いのではないかと思います。疲れ切って電車に乗ったとき、目の前のごく至近距離に「柔らかそうな女性の体」や「自分好みの男性の体」が存在するとして、ついふらふらと手を出してしまいそうになることは、少なくともないとは言い切れないのではないでしょうか。

大抵は理性による抑止力が働き、実際に行為に及ぶことは稀なのだと思いますが、飲酒により歯止めが効かなかったというケースもあるそうですし、同じく疲労困憊状態で理性が働かないといったケースもあるそうです。

飲酒または疲労状態で満員電車に乗る、ということは、とくに首都圏に住んでいれば誰にでも起こり得る状況です。今これを書いている私自身も、また、これを読んでいる方々も、いつ同様の状況に陥るか分かりません。

ただ、やむを得ない状況により行為に及んでしまったとしても、それを繰り返すかどうかがひとつの分岐点です。

男性加害者へのインタビューからは、「一度うっかり触ってしまったあと、性的に非常に興奮し、男性としての自信が回復されたように感じた」として常習化したケースがありました。違法ドラッグなどと同じく、快楽・興奮状態を繰り返し求める「依存症」と考えられます。こうなるともう、自分の理性だけでは抑止することが難しいので、再犯率が高いことも納得できます。

なお、パターン1において発端には性欲が含まれるかもしれませんが、常習する場合既に性欲とは別の興奮に依存していると思われるので、性欲だけが原因ではありません。適切に性欲をコントロールできる人間であっても、痴漢犯罪加害者になることはじゅうぶん考えられます。

パターン2、ゲーム感覚型

次に、パターン2についてです。

これはインターネットで「痴漢待ち」などを検索するとある程度実態が見えてきます。たとえば「ドア付近に立っている」とか、「特定の位置で背を向けている」とか、それらしい「痴漢待ち人間」の特徴がまことしやかに述べられています。

とくにアダルト系の創作物で「痴漢もの」というジャンルがあると思いますが、嫌がる相手に行為を強要するパターンもあるものの、興味深いのは「痴漢されるのが好きで、痴漢されることを期待して待っている人間がいる」状況を想定したもので、「痴漢待ち」妄想はこういった創作物による影響もあるのかもしれません。

一度手を出してみて、抵抗されなかった場合、「やはりあれは痴漢待ちだった」つまり自分の行為に正当性があると考え、繰り返し行為に及ぶようです。このパターンはまさに「狩り」のような、ある種のゲーム感覚によるものと考えられます。集団で痴漢犯罪に及ぶグループもあるらしく、そうなるともはや完全に「ゲーム」でしょう。パターン1よりさらに性欲とは縁遠い動機です。

パターン1からパターン2に移行するケースもあるようですが、この場合は自分の罪の意識をごまかすため、「相手も痴漢されたがっていた」と繰り返し思い込んでいるようにも思われるので、初めからゲーム感覚で行為に及ぶパターンとはやはり区別して考えるべきかと思います。

パターン1及び2における「万引き」との類似性、「異性との接触を盗む」犯罪

なお、パターン1、パターン2のいずれも、加害者の心理的に近い犯罪を挙げるとすれば「万引き」ではないかと思います。

痴漢犯罪を、被害者との性的接触を「盗む」行為と考えれば納得しやすいように思います。万引きも常習化しやすい犯罪とされますし、万引き依存症の事例も多く存在します。つい出来心で盗ってしまった、とか、たまたま盗めそうな位置にものがあったから盗った、とか、想像しようと思えば誰でもいくらでも想像できるのではないでしょうか。たとえば道を歩いていて、民家の庭先にたくさん実をつけている立派な柿の木を見かけたら、ひとつくらい持っていっても……などと想像してしまうこともあるかもしれません。

万引きにおいても、どうしても食べたいものがあるとか、どうしても欲しいものがあって盗むのではなく、ふと「持っていっても良さそうに見えた」ものを盗ってしまうパターンが多いように思います。痴漢も非常によく似ています。一度成功すると、二度目以降の心理的ハードルが低くなってしまう点も似ていますし、常習化するに従って罪の意識はうすれ、被害者への共感性が失われていく過程までもが似ていると思います。

そしてこの心理的ハードルの低さ、加害者の気軽さと被害者の負担の非対称性、その構造が、冒頭に述べた「見知らぬ女児を何気なく抱き上げた初老の男性」に繋がっていきます。

なお、被害者の心理を軽視したいわけではないことを念のため強く言っておきます。万引きにせよ痴漢にせよ、加害側の衝動と被害の深刻さが見合うわけはなく、被害のほうが圧倒的に深刻なケースのほうが多いでしょう。

パターン3、精神疾患について

話を戻します。

痴漢は「窃触症」という性的倒錯疾患から起こることもあるようです。私はこの症状をまったく知らなかったので、Wikipediaをまず読みました。

窃触症 - Wikipedia

この疾患は「異常性欲」と呼ばれることもあるようですが、個人的に「異常」は差別対象として切り捨てられるイメージがあるので(かつて同性愛が「異常」とされていた時代を想起させられる)、「性的逸脱」という単語を使いました。実際の治療にも去勢に近いことが行われるようなので、壮絶な疾患だと思います。小児性愛なども性的逸脱に含まれますが、望んでそうなるものではなく、病識もある場合は悲惨です。

また話が少し逸れますが、性嗜好の特殊性に関しては、それらを描いた読み物等を規制するのではなく、性欲を適切に処理できるだけの映像・読み物・道具等が提供されたほうが、現実における犯罪行為を抑止できると私は思います。ある種の人形や、とくにバーチャルリアリティ等が解決策になるのではないでしょうか。少なくとも規制によって有病者がよりよい生活を望めるようになるとは思いませんし、レアリティの高いものほど蒐集欲は強くなるでしょうから、犯罪の抑止にも繋がらないと思います。

痴漢撲滅には「鏡」が有効なのでは?

私は痴漢犯罪はできるだけなくなってほしいと考えていますので、加害者の心理を理解したうえで、何がいったい適切な対策なのか考えておきたいと思います。

まず、現在の痴漢撲滅への取り組みのうち、ポスターは一切なんの効果もない悪ふざけであると私は考えます。痴漢を依存症と考えるなら、ポスター程度では絶対に何も変わりません。むしろ病識へ刺激を与えることによりさらにストレスが増加し、行為を加速させる危惧さえあると思います。

もしもポスターを使うなら、やはり万引きを想定すると考えやすいように思います。たとえば「痴漢は治療が必要な依存症です。相談先はこちら」といったような、具体的且つ加害者の心理に寄り添う表記であれば、なにかしらの効果はあるかもしれません。また、被害者からの通報を求めるような書き方では、痴漢でっち上げによる示談金強奪や悪意のある冤罪被害をむしろ増やすだけではないかと思います。

では埼玉県警による「痴漢防止シール」はどうかというと、「冤罪被害を増やすだけでは」との声もあるようですが、一定の効果はあるだろうという気もします。なぜなら、痴漢加害者は被害者に対する共感性を失っている状態であるとも言えるので、被害者がはっきりと不快感を表明する可能性を意識にのぼらせるだけでも意義があると考えられるからです。(抑止効果以上に冤罪の被害が大きいなら中止すべきですが、今のところ判断に足る有用なデータが見つからなかったので、なんとも言えません)
www.j-cast.com

ここで私のアイディアをひとつ述べると、「鏡」があります。

なにかしらの興奮状態、つまり我を忘れている状態にあるとき、「鏡などで自分の顔を見る」と我に返る、という経験が誰しもあると思います。インターネットにも、「夢中でネットサーフィンやゲームをしているとき、急にディスプレイの電源が落ちて真っ暗になり、自分の顔が映し出されると恐怖」といったような小噺が多くある通り、「自分の顔」とくに「興奮状態の自分」を認識すると、なんらかの沈静効果が期待できるように思われます。

そのため、カーブミラーのような鏡が電車内にあるとか、あるいはバッグに鏡をぶらさげておくと、少しは効果があるんじゃないか、という気がします。

私が鏡に効果を期待する理由として、自分の経験した痴漢被害を思い起こすと、必ず加害者は電車の「窓」に映らない位置に立っていたことも挙げられます。(被害者から顔を見られないようにという意識からそうしているのだと思いますが)

痴漢防止ポスターも、イラストによる表現ではなく鏡を使うとより効果的かもしれないと思います。

私が研究者だったら実験してみたいところですが、研究者どころかほぼ無職なので難しい。検索してみたところ、防犯ミラーを販売している企業が万引き防止実験をした事例を見つけましたので、リンクしておきます。
www.komy.jp

まとめ

  • 痴漢加害者は必ずしも性欲がコントロールできなくて行為に及ぶわけではない
  • 痴漢加害者の心理は万引き犯と似たところがある
  • 私は痴漢防止には鏡が一定の効果をもたらすのではないかと考えている

以上です。